産業医とは「誰から」「何を」求められている医師をいうのでしょうか。実はこれが一番本質的な問題であり、かつ産業医のアイデンティティ確立の原点ともいえる問題なのです。事業者が産業医を選任する場合その理由として、第一に法律(行政)が産業医という制度を構築して、かつ事業者はそれに従ってその選任作業を行っているという構図があることに気がつきます。一方本来であれば、事業を運営していく必要から「労働者の安全と健康を確保するために産業医を選任したい」という事業者側の意向があるはずであり、産業医から直接的な恩恵を受けるであろう労働者側からも産業医への要望も当然あるように思われますが、実はこれらは表面には出にくい部分となっています。

 産業医の誕生は労働安全衛生法(昭和47年)によっています。その意味から産業医はまずは法律からしっかりと勉強すべきというべきなのかもしれません。ここ数年の産業保健活動に関する行政の指示や動きを見ましても、平成8年労働安全衛生法の改正、平成12年心の健康づくり指針、平成13年過労死認定基準の緩和、平成14年時間外労働の健康管理義務、等々とあり、矢継ぎ早の改定や新規方針には産業医は大いに注意をしてその的確な把握に心がけねばなりません。

 ご存知のように産業医の目的は上記の法規内容の実践ではありません。法規の実践義務は事業者にあります。産業医の目的は、職場における産業医学の専門家として労働者の「労働と健康を調和させる」ということに尽きます。これを達成させるために、健康診断を行い、職場巡視を行い、作業環境を評価し、労働安全衛生体制を構築し、管理監督者および労働者を教育し・・・等々、という作業が必要になるのです。労働者の健康に障害を与える可能性のあるすべての有害要因に対し、職場に理解させ、その接触を回避させることを伝えねばなりません。不可避的にその諸要因に接触や暴露があるのなら、労働者に健康障害発症レベルにまで至らせないための保護と管理技術を駆使しなければなりませんし、仮に発症の段階となってしまった場合にも、それが障害の発生や固定化、程度の悪化に発展しないための管理措置が必要ということになります。以上のプロセスを計画的に、かつ見落としなく遂行していくためのアプローチ原則が労働衛生の三管理です。

   粉塵、特化物、有機溶剤、鉛、酸欠、暑熱寒冷、騒音、有害光線、振動、等に関しておもに労働衛生工学的な暴露回避施策をする。

   作業強度、作業速度、作業姿勢、作業時間、手工具の配置、保護具の装着確認、等に関しておもに労働衛生学的な管理をする。

   健康診断、事後措置、保健指導、疾病管理、等に関しておもに産業医学的な管理をする。

この三管理が労働衛生の基本視点です。これらの知識や技能を統合し実際の産業現場に応用できるよう産業医には日ごろの研修が必要です。


 
     
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